イチ*コイ



「いいって、俺が持つから」

「だから大丈夫だって!
 自分の荷物だし、自分で持つよ」


 うーん……他の女は喜んでたんだけどな。

 やっぱ美華は他の女とは違うっつーことか。


「俺が持ちたいんだよ」

「……他の女の子は喜ぶかもしれないけど、あたしは嬉しくない。
 だから返して」

「何で嬉しくねぇんだよ?」


 こんな風に、怒る奴はいなかった。

 新鮮だけど扱いにくい。

 ちゃんと目を合わせて聞く。

 まずは話し合うときに目を合わせること、姉貴はそう言ってた。


「…自分の荷物だもん、自分で持つのは当たり前でしょ?」

「……」

「斗真は反射的にしてる気がするよ。
 斗真は本当に荷物持ちたいの?」


 反射的に……か。

 確かにそうなのかもしれない。

 小さい頃から姉貴にそう叩き込まれたからな…。


「確かに反射的にしてるかもしんねぇ。
 けどお前の荷物は持ちたいって思う」


 さっき持ったら、微妙に重かったし。

 俺は大したことねぇけど美華は重いんじゃねぇかって思う。



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