イチ*コイ
走っていく廉を見送った。
…完全に不安がないわけじゃない。
廉は不細工じゃねぇし、性格もいいほうだ。
俺より美華に合ってるかもしんねぇ。
ただ…美華を信じてみたかった。
自分の席に着いて教室を見回した。
あの頃と変わらない俺と美華の位置。
近付いたのは心の距離。
目を閉じればあの日のことがすぐに思い浮かんだ。
挨拶したのにシカトしたお前。
そして少し赤くなったお前。
俺を起こしたときのお前。
あの日だけでもこんなに覚えてる。
お前がいるだけで俺の世界は輝くんだ。
美華…信じてる。
お前は俺から離れていかないって。
約束、したから。
イヤホンをケータイに付けて『明日の夢』を聴いた。
そう言えば、いつも美華の変化に気付いたのは廉だった。
2年の5月から見てりゃわかる、か。
「…斗真」
「…おう」
イヤホンを外して廉を見る。
どくりどくりと心臓が嫌な音を立てる。
信じてる、けど…不安なんだよ。
からりといつものように笑う廉。