イチ*コイ
「顔に『私は高所恐怖症です』て書いてあんぞ」
「えっ…う、嘘でしょ!」
ちっ、騙されねぇか…。
けどもう一息、だな。
「まじだって。
ここに書いてあるぜ、妹の仕業か?」
「い、妹はそんなことする子じゃないし…」
とか言いつつ、ほっぺを隠す美華。
ふ、吹き出す…!
けどここで吹き出したら台無しだろ…っ!!
「まじって。
鏡貸してやろっか?」
「う、うん…」
ぷ、まじで引っ掛かってるしっ♪
ほんとウケるよなー、コイツ。
リュックのポケットを探る。
…お、あった。
「ほらよ」
「あ、ありが…と…ぅ」
手のひらに乗る、ガムのゴミ。
持って帰んのめんどかったから助かったわー。
「……」
「おーい斗真、それはないんじゃねぇ?」
「あ?黙って歩け」
いつものようにクセで廉を蹴る。
――それが間違いだった。
「うわっ!」
よろけた廉の脚が俺の脚に当たった。
油断していた俺は、倒れていった。
杉の樹が並ぶ、急斜面の崖へ…。