イチ*コイ



 音楽が止まっていた。

 白い採光は変わり、オレンジ色の光が射し込む。


「乃亜…?」


 名前を呼んでもいつもの声がしない。

 ケータイで確認すると時刻は5時35分。

 そして受信メール1件。

   20XX/04/17 17:03
From:乃亜
Sub :No title
――――――――――――
起こしても起きない
カラ置いて行きまーす♪
    ---end---


「ちっ…あの女」


 起きなきゃ起こしたとは言わねぇんだよ。

 はぁ、……冷めた。

 あと1回がラストチャンスだな。

 そしたら別れよ。

 出入り口に行こうとすると…1人の女がいた。

 窓際の1番奥の座席。

 ――そこにあいつが、いた。

 その女は分厚い本を読んでいた。


「…オイ、もう5時半すぎてるぜ?」

「…」


 無視か、こいつ…ッ!


「オイッ!!」


 近付いていって、俺を見るように肩を掴んでこちらを向かせた。


「――ッ!?」

「――ッ、え…!?」


 泣いて、る…!?

 急いで肩から手を離す。


「わ、わり…そんなに痛かったか?」

「え、いや…あの」


 黒縁メガネに丸い顔。

 こいつ、どこかで…あぁ、俺の隣の席の奴だ。



< 4 / 238 >

この作品をシェア

pagetop