イチ*コイ



「は?いいって」

「だめ!お願い、奢らせて…?
 じゃなきゃあたしの気がおさまらないよ…」


 ンなの気にしなくてもいいのに。

 …礼っつったら、アレしか思い当たんなかったしな…。

 やっぱ俺と美華は、全然ちげぇ。


「あ!あたし、いいお店知ってるの。
 そこでいい?」

「ん、あぁ…別にいいぜ」


 妙な違和感を覚えながら、美華についていった。







 レンガ造りの小さな三角屋根のカフェ。

♪カランカラン♪


「いらっしゃいませ」


 ひげ面のマスターが静かに言ってコップを磨く。

 美華についていって、奥の席についた。

 店内ではレコードが低く、響いていた。

 グランドピアノと、大きな暖炉が目をひく。

 冬に来たらきっと、いいんだろうな。


「ここのね、ランチセットが美味しいんだ。
 あたしと梢が見つけたの」

「それだ…」

「え、?」


 さっきから感じてた違和感の正体。

 美華の一人称だ。



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