イチ*コイ



 美華はお目当てのイルカのぬいぐるみを買って機嫌がいい。

 分かりやすい奴…フッ。

 送ってもらうようにしたから楽だし。

 最後に、また中に入って近いところを見ていた。

 水族館にいると、時間経つの忘れちまうんだよな…。

 自分はすげぇちっぽけな存在なんだって思う。

 いくら足掻いたって、世界には対抗できない。

 …対抗するつもりねぇけど。

 ただ、なんとなく。


「水族館って、すっごく落ち着く」

「あんだけはしゃいどいてか?」

「あ、あれは…!
 テンション上がっちゃって…」


 恥ずかしそうに俯く美華。

 ああ…こいつは、どこにいたって変わんねぇんだ。

 環境が変わったって、自分は自分。

 そう、割り切ってるんだ。

 …俺にはできねぇけど。

 気にしてないようで、人一倍人のことを気にしてる。

 自分の害になったら面倒だから。


「そろそろ出るか?」

「うん…何か、寂しいね…」

「ふん、…また来ればいいだけだろ」


 俺がそう言うと、美華は笑った。

 どこか、無理をしたような顔で。



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