イチ*コイ



「…斗真くん」

「ん?どうした??」


 柔らかく笑い返す。

 自分の気持ちに気が付いたから。


『誰かを愛すれば優しくなれる』


 その格言が本当なんだと思った。

 今までそんなの、信じてなかったけど。


「斗真くん…乃亜と付き合ってたんでしょ」

「…そうだけど」


 何で今さらそんなこと?

 それに今の俺たちには関係ねぇし。


「言わなくてもわかると思ったから言わなかったけど。
 …あたし、乃亜の双子のお姉ちゃんなの」

「――!?……へぇ?」


 驚きはしたけど戸惑う内容じゃあない。

 そう言えば2人とも九条だな、って…その程度。

 一瞬で平静を取り戻した。

 微妙な距離に気が付いて、美華に近寄ろうと足の向きを変える。


「来ないでっ!!」

「…美華?」


 涙で揺れる大きな瞳。

 その瞳には戸惑う俺が映されていた。

 拒絶される理由が、わからなかった。

 拒絶なんて今まで1回もされたことがなかったから。


「…あたし、もう斗真くんとは関わらない」

「…何、言ってんだよ…?」


 俺とは関わらない…?

 なんで どうして?

 数分前まで、笑い合っていたのに。



< 93 / 238 >

この作品をシェア

pagetop