百地外伝~夢と希望
それは、数年前に見た夢。
炎にまかれ、逃げ惑う人々、黒くただれた死体。
目を覆いたくなる悲惨な光景。
そこにあたしの姿はなくて、これが過去の出来事なのだと理解した。
未来の夢には必ずあたしの姿がそこにあるから。
翔と翔の両親にこの夢の話をすると、
「それはきっと戦争の記憶だね」と教えられた。
私の中にある先祖の記憶が、あたしにこの夢を見させているのだと。
それから翔と二人、夏休みの自由研究を<終戦の記憶>と題してまとめた。
図書館で体験者の手記を読んだり、記録写真を眺めたり、当時の新聞を読んだり、『東京裁判』の映画を観たりした。
あたしが夢に見た生々しい炎の記憶は、紙の上には見つけることができなかったけど、たしかにあった記憶なのだと心で理解した。
あれから再び、同じ夢を見ることはないけれど、あたしの中の夢の記憶は夏のこの時期になると呼び覚まされる。