百地外伝~夢と希望
「さぁ、そろそろ私達は引き上げましょう。
陽が崖に落ちたら、この入り江には人魚が戻ってくるから」
「人魚?」
「そう、人魚。
この辺りの人魚は皆、この入り江で夜を過ごすのよ。
だから、入り江の陽が陰ったら彼女達の邪魔をしちゃいけないの」
「紫苑先輩、人魚って……、ほんとに?」
こんな状況で言われたら、もしかしてって思っちゃうあたしは、単なるおバカな夢見る乙女かもしれない。
でも……、もし本当なら、人魚に会ってみたい。
「ふふ、母のお伽噺。
陽が陰ると急に暗くなって、寒くなるから、母が私を早く水から上げるための作ったお伽話よ」
そう言った紫苑先輩はちょっぴり寂しそうで、泣いているようにも見えた。
いきなり水に潜るという奇行におよんだ紫苑先輩は、もしかしたら、自分が泣いているのを気づかれたくなかったのかもしれない。
「先輩?」