百地外伝~夢と希望


あたしの言葉を振り払うように、紫苑先輩が走りだした。

走りながら、自分の脱いだパーカーを拾い上げ、それにウニを包むとサンダルを引っ掛け別荘への階段へ向かって突き進んで行く。

と、突然振り向いて、大きな声で宣言した。


「ウニは5個しか採れなかったの。

お父様に一つ上げると、残りは4個。

最後の人は、なぁ~し!

別荘まで競争よ!」


「よぉ~し」


無意味に意気込んだのは、勿論、翔。

その後ろを反射的に百地が追いかけて行く。


あたしは、勿論、こんな競争に参加する気は毛頭ない。

ユタは?


「紫苑先輩のお母さん、3年前に亡くなったんだって」

「えっ?」

「さっき小太郎先生に聞いた。それからずっと、紫苑先輩、この別荘には来てなかったらしい」

「もしかして、お母様の思い出が沢山あり過ぎるから?」


「そう、じゃないかな」


きっと、ユタもさっきの紫苑先輩の涙に気づいていんだ。
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