百地外伝~夢と希望
「この合宿、楽しくなりそうだな」
「うん、楽しくしなくちゃね」
小さい癖に強引なユタが、しっかりとあたしの手を握り、心なしか急ぎ足であたしを引いて歩き出した。
「なに? ユタ? そんなに引っ張らないでよ」
「だって、ホント、急に暗くなる」
崖肌を覆う草が入り江から吹き込む風に煽られ、ザワザワと揺れた。
上を向くと空はまだ青く明るいが、ユタの顔が陰って見えにくい。
思わず身体がブルっと震えた。
ヒュゥルル……ヒュゥルル……
笛のような高い澄んだ音が、何処か遠くから聞こえたように思った。
「夢子、早く上がろう!」
その音はきっとユタにも聞こえたに違いない。
慌てたユタは繋いでいた手を離すと、逃げるように階段を駆け上がって行ってしまった。