百地外伝~夢と希望



「夢子どうした? 人魚でも見た、って顔だぞ」



突然聞こえた声に驚いて顔を上げると、百地があたしの顔を覗きこんでいた。

「ユタが一人で戻って来るから心配でさ、翔にも様子見てこいって言われた」


ヒュゥルル……ヒュゥルル……


笛のような高い澄んだ音が、また聞こえた。

あたしは再び黒い影を探して、入り江の入り口に視線を移す。


「夢子が見た黒い影は、きっとイルカだ。

そしてあの音は……、俺を呼ぶ風の音。

おまえにも聞こえるのか……」


黒い影の正体をあっさりと明かされ、あたしの夢は打ち砕かれた。

あの音は、人魚の歌声かな、なんて勝手に想像してたのに。


それにしても……、

「あたしもって、他の人には聞こえないの?

あれは、百地君を呼ぶ音なの?

誰が?

どうやって?

何のために?」


「いっきに質問責めだな」


「ねぇ、答えてよ」


「俺にもわからない。ただ、俺を呼んでるってことだけは分かるんだ。

あの音は、何処かもっとずっと遠いところから、俺の心の中に響いてきている」


「心の中に響いてる音?」

「そう、だから俺とお前ににしか聞こえない」

「……」
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