百地外伝~夢と希望
間もなく、車は本道をそれ、小さな小路へと入っていった。
木々の生い茂る林道をガタガタと走り続けること数分。
突然視界が開けて、そこには大きな門構えの平屋の旅館が姿を見せた。
太い柱、張り出た軒、重厚な瓦屋根がこの建物の歴史を感じさせていた。
「桂木旅館……」
かつらぎ、どこかで聞いたような?
あたしは、記憶の糸を手繰ろうと無意識の内に顔をしかめた。
「ふふ、気が付いた? ここは母の実家なの」
「お母様の?」
「この下の繁華街にも系列のホテルがあるんだけど、本館はここなの。百年以上続いた老舗旅館なのよ」
にっこり笑った紫苑先輩は、何故か何処か寂しそうで。
この場所も、お母様との想い出の場所なのだということが伝わってきた。
「ここの露天風呂はとても素晴らしいの。
是非二人にも味わって貰いたくて」