百地外伝~夢と希望


入って来た車の音に反応するように、閉まっていた玄関の大きな引き戸が大きくガラリと開いた。

出てきたのは、薄紫の着物に身を包んだ小柄なご婦人。

その小さな身体に不釣合いな、はっきりとした通る声で、

「紫苑様、ようこそ、いらっしゃいました」と大きく頭を垂れた。


「お久振りです、孝子さん。今日はお友達と三人なの」


紫苑先輩はいつもと変わらない自然な笑顔でさらりと言った。


「今日はお天気が宜しゅうございますから、眺めも一段と美しいですよ」


静かに、でも颯爽と歩く孝子さんの後ろについて、建物の奥へと誘われていった。

天井の高い室内は、どこかひんやりとして空気が張りつめていた。

何処までいくのかな?

迷路のように張り巡らされた、長く続く廊下の付きあたりに、大きく『湯』と書かかれた藍染の暖簾が姿を現した。
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