百地外伝~夢と希望
「……でよろしいでしょか。タオルはこちらの棚のものをご自由にお使い下さいませ」
浴場の説明を終え、孝子さんの姿が扉の向こうに消えると、紫苑先輩が小さな声で囁いた。
「この旅館はね、一日に一組しかお客を泊めないの。
だから基本的に、ここのお風呂は混浴。
だって、一つしかないし、そういう決まりだから」
「でも、別々に入ればいいだけじゃ……」
「駄目、孝子さんが許してくれない。
この宿に一緒に足を踏み入れたからには、一緒にお風呂に入るのが決まりなの。
だから、三年前まで、あたしも母もお父様も、三人で仲良くこの露天風呂に浸かったものよ……
今日は、だから、三人で良かったでしょ?」
紫苑先輩の言葉に、あたしと翔は素早く反応して頷いた。
混浴なんて、無理、無理、恥ずかしすぎるよ!