百地外伝~夢と希望
「ここの湯は鉱泉なの。
特に、傷によく効くそうよ。
だから、昔は『落ち武者の湯』とも呼ばれていたらしいわ。
源泉がこの少し上にあって、そこには野生の猿も入りにくるのよ」
紫苑先輩は喋りながらも、片膝をついて木桶で湯を汲み、ザッと身体に湯をかけると、静かに岩で固められた湯船に身体を沈め始めた。
あたしと翔も紫苑先輩の仕草を真似て、身体に湯をかけ、静かに湯に身体を沈めていった。
「ぬるくて気持ちいい……」
身体を包み込むような心地良さに、思わずため息さえ漏れそうだ。
「そうだな、温泉って、熱いってイメージあるよな」
「夏は源泉からここまで湯を引いても、やっぱり少し熱めなの。だから、泉の水を足してぬるめているのよ。
この湯はゆったりと、少しでも長い時間、楽しんで貰いたいから……」
雲の上に、羽を広げてゆったりと浮かぶ鳥のように、水の中の身体はいつしかあたしの意識を離れ、宙に浮いた。