百地外伝~夢と希望
『丹波、これが大儀というものか?
そんな物、ただの言葉に過ぎぬ。
我にはこの戦の終焉が見て取れるというのに……』
『巫女様、夢に囚われては成りませぬ。その先をご覧になられるのが巫女様の役目』
『そちも行くのか?』
『巫女様が在りどころをお隠しになられたのを見届け次第』
あたしは、切り立つ崖に刻まれた、細い階段を岩を伝いながら静かに下りてゆく。
その下にある、横穴、そこがあたしの隠れる場所。
皆の行く末を見届けるまで、あたしはここで身を潜めて待つ。
ここで、ひとり、次の夢を授かるのを静かに待つ。
次の世代が巡るべき道筋を伝えておかねばならない。
あたしの巫女としての最後の役目。
『丹波、いつの世でか、また会おうぞ』
あたしの差し出した右手を、力任せに引き寄せ、丹波があたしを掻き抱く。
『巫女様、今生の別れにございます』
熱い吐息が耳にかかる。
一瞬の、幻のような抱擁を残して、丹波の姿は闇へと消えていった。
その後に残されたのは、孤独と闇。