百地外伝~夢と希望


「紫苑先輩、夢子が湯当たりしたみたいなんで、少し休ませてもらっていいですか?」

「あら、ま、たいへん。

昨日の今日だものね、ちょっと刺激が強すぎたかしら?」


涼しい顔でニコリと微笑んだ紫苑先輩は、躊躇なく湯から身を起こすと、出口へ向かって真っ直ぐに歩き出した。

翔に支えられ、ゆっくりと歩き出したあたしに、戻ってきた紫苑先輩がフワリとバスタオルを掛けてくれた。


「ちょっと、待って」


後ろを向いてしゃがみ込んだ紫苑先輩は、今度はタオルを水道の水で濡らしている。

水滴が滴るほどに緩く絞られた、冷たいタオルが顔に当てられた。

眠っていた身体が、悲鳴を上げて目を覚ます。


「湯当たりでしょ、冷まさなきゃね」


紫苑先輩の対処は正しい。

お陰であたしは正気を取り戻した。
< 185 / 328 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop