百地外伝~夢と希望
「さぁ、疾風、出発じゃ」
長が大きく手綱を振った。
荷馬車が大きく揺れ、動きだした。
舗装道路の上だということもあって、その乗り心地は中の上。
疾風の規則的な蹄の音と荷車の軽い振動が、思いのほか心地良い。
「でさ、何で疾風は機嫌が悪かったの?」
「あぁ、それは……」
「わしが馬具の取り付け方を、ちょいと間違えておってのう。
皮当てがきちんと当たってのうて、金具が当たって痛かったんじゃ」
手綱を握っていた長が、百地の代わりにそれに答えた。
「わしも歳じゃのう、もうただの老いぼれじゃわい」と、力なく呟いた。
「でも、なんで……」
(なんで、それが百地にわかったの?)
「わかったわけじゃない、感じたんだ、動物がしゃべるわけないだろう」
そう言った百地の顔には、明らかに困惑の表情が浮かんでいた。
それは、自分の持つ能力に対する恐れ。
百地には、人の心だけじゃなく、動物の心も読めるということなのか?
「驚くには及ばぬことじゃ。心波にも、森羅万象の声を聞き分ける能力があったでのう」
三人が同時に見つめ合った。
お互いがお互いの驚きを確かめ合い、それをどう受け止めて良いのか探り合う。
規則的な蹄の音と荷車の軽い振動が、この衝撃の事実をゆっくりとあたし達の内に浸透させていった。