百地外伝~夢と希望
「戸隠の女子は、巫女となる運命を背負うて生まれてくる。
そして、巫女は一人の男に添い遂げることは許されない。
子を身ごもることはあっても、添い遂げてはならんのじゃ」
「でも、懍おばさまだって、百地心波と……」
「そう、全ては懍の代から狂うてしもうたのじゃ。
巫女が一人の男に添い遂げるということは、己を捨てることを意味する。
それがどれ程恐ろしいことか……」
「そんなの、おかしいです。
母と父は愛し合って駆け落ちしたんでしょ?
あたし達、幸せに暮らしてました。それがいけないことなんですか?」
「懍も幸せだったかのう……、なら、いいんじゃが……」
それっきり、長は言葉を飲み込むように押し黙った。
その沈黙が、余計にあたしの不安を掻き立てる。
『巫女は一人の男に添い遂げることは許されない』
『それがどれ程恐ろしいことか……』
長の言葉が、あたしの中で木霊のように繰り返される。
それが、巫女の呪い……