百地外伝~夢と希望



「心波さん、お願いです、巫女としての懍おばさまが、何故あんなにも苦しまなくてはならなかったのか、その訳を教えてください」



あたしは、すがるような気持ちで心波にそう問うていた。


「お前には、その理由が分からぬと」

「だって、あたしには、その苦しみの記憶しか残っていないんです」

「わしも知りたいのう、この五十五年の間、ずっとそのことが気がかりじゃった。

風がこの村を捨てたのも、そこに理由があるのじゃろうて」


長い沈黙の後、ようやく、意を決したように心波が口を開いた。


「この五十五年の間、わしが沈黙を守り山に篭ったのには訳がある。

わしはずっと自分を責めておった、懍を守れなかった自分の不甲斐なさを、な。

伊賀には『巫女は一人の男に添い遂げることは許されない』という戒めがある。

その戒めを破れば、その身に災いが起こると信じられていた。

だが、その戒めを破って『懍』とわしは対となった。

わしには、わしと懍が対であるという確信と、必ず懍を守り通せるという自信があったのじゃ」




「あの戦争がなければのう、それはそれで真実だったやもしれん」



長が小さく呟いた。
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