百地外伝~夢と希望
「あの当時、わしは日本を取り巻く全ての情報の中枢にいた。
わしは無謀にも、その情報の全てを懍に聞かせて、夢のお告げを請うたのじゃ。
当時はその情報の先にある結果に大きな意味があった。
一刻を争う戦時じゃった。
他に手立ては残されていないという確信があった。
もうわしらには、後はなかった。
理由は並べればきりが無い。
が、それが懍を結果的に苦しみへと導いてしもうたのじゃ」
「あの炎の夢、ですね」
あたしは確信をもって、指摘した。
「そうじゃ」
「ある時、懍はあの夢を見た。
炎の中を逃げ惑う大勢の人々、焼け爛れた死体、、この世のものとは思えないあの惨禍の情景を」
「あれは……」
「今思えば、あれは原爆の、広島と長崎に落とされた原爆の記憶じゃと思う。
懍はわしの聞かせた情報から、あの夢を、この戦争の最悪の結果を引き出してしもうたのじゃ」
「懍……」
長の目から涙がこぼれた。