百地外伝~夢と希望
「やはり、そうであったか……」
襖を隔てたその奥から、静かな、でも威厳のある声が響いてきた。
「魁、お前も来ておったのか……」
「なかなか呼ばれんでのう、出向いて来てしもうたわい」
襖が音もなく開き、そこに、長い白髪を後ろ手で縛った、狸顔の老人が姿を現した。
この人が戸隠魁?
あたしの祖父?
「お前は夢を写す鏡であれ。決して夢に囚われてはならぬ。夢に囚われた者は亡びる」
戸隠魁はあたしをじっと見つめながら、諭すように語りかけた。
「あれ程言い聞かされて育った筈じゃのにのう、何故ゆえ、従えんかったかのう」
「懍は恐らく分かっていた筈じゃ、夢に囚われることの結末を。
じゃが、止める訳にはいかんかったんじゃ。
それだけ、懍に縋った魂の数が多かったということよのう。
全ては、わしの過ちじゃ、懍に頼りすぎたのう、悔やんでも悔やみ切れん……
すまんかったのう」
「心波……」
「じゃが、今、お前達がここにいる」
長、心波、魁、三人の視線があたしに注がれた。
いや、正確に言えば、あたしと百地に。
「夢子は懍の生まれ代わり、そして忍、お前はその対となる者。これはもう、状況から明らかじゃ。
お前達二人が、今生で出会うたと言うことは、これから先、この世に大きな困難が待ち受けていることを意味しておる」
「えっ?」
(そ、そ、そんな大それたお話なんですか?)