百地外伝~夢と希望
ママの様子は明らかにいつもと違った。
白装束に身を包んでいる見た目からして違うんだけれど。
それだけじゃない。
ママは母という立場を全て捨て去り、巫女としての戸隠風としてここに居るのだ。
引き締まった顔、真っ直ぐな視線。
彼女は差し出すような格好で、両手に何やら布地のようなものを捧げ持っていた。
「巫女様、さあ、御召しかえを……」
その声を合図のように、あたしの身体は部屋の奥へと押し進められて行った。
あっと言う間に、着ていた服を脱がされ、次々と目に馴染まない着物を着せられていく。
結んでいた髪も解かれ、油のようなものを塗って撫で付けられた。
鏡もないので、自分がどういう姿になっているのか想像ができない。
最後、先ほど目にしたあの赤い模様の内掛けを羽織らされ、あたしは自分の手元に引き寄せられたその文様を間近に見た。
『あたしはこの着物に袖を通したことがある』
蘇る記憶、渦巻く赤い文様。
波打つ血潮の躍動に身体を奪われ、あたしの心はその遥か向こうへと誘われていった。