百地外伝~夢と希望


夏休み、熱海への文芸部合宿の後、翔と百地と根来へ行った。


行ったことは確かだけど、何故か半分夢の中みたいに霧がかかって想い出せない。

竹林に囲まれた藤林の家、裏山で見た「ひかるのはら」、でっかい鳥居の奥に広がる、派手な戸隠御殿。



長に会って、心波に会って、おじい様に会って、

それから……



なんか、ひと夏根来で過ごした割りに、思い出せる出来事が少なくて。

帰る頃、母が迎えに来て、おじい様と仲直りして、これからは盆と正月くらいは遊びに来なさいと念を押されて、



嗚呼、それから……



畑で採ったスイカは食べたっけ?

あたし戸隠御殿で何してたんだろう?


思い出せない……


あたしの頭に不安が過ぎった。


「夢子」


百地があたしの方へ振り向いた。


「今は思い出さなくていい、時がくれば自然と思い出す」


差し出された手を握った。

百地の温かさが伝わってくる。

不思議と何故か、疑問を疑問として、そのままを受け入れられる気がしてきた。
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