百地外伝~夢と希望


「おはよう、夢子」


朝練を終えた百地があたしの隣の席についた。


「ねぇ、百地君、博君ってあんたのこと『しぃにいちゃん……』って呼ぶ?」

「な……」

あたしの突拍子もない問いかけに、百地の顔が一瞬固まった。

「ねぇ?」

「ああ、博はそう呼ぶ」

「やっぱり……、よかったね、博君、歩けるようになるよ」


あたしは、淡々と、なるべく感情を挟まないよう気を付けて言葉をつないだ。


「えっ、夢子、お前、何言ってんだよ?」


驚いてあたしを覗きこむ百地の気配を感じながら、あたしは冷静を装うため、俯いて彼から距離をおこうと必死だった。


「あたし昨日夢を見たの。

博君が百地君に向かってゆっくり歩いてくる夢。

博君、百地君のこと『しぃにいちゃん……』って呼んでた」


「って……」


「ごめん。

歩けるようになるって、そんな漠然としたこと言われても困るよね。

何時どうやって治るのとか、どうすればいいのかとか、具体的なことは何にもわかんないんだけどさ……」


こんな叶うかどうかわからない、あたしの予知夢を、翔以外の人に伝えようと思ったのは初めてのことだったから。

口にすればする程、漠然とした内容に自分でも自信がなくなってきた。


「いや、そんなことない。

治るって夢子に言ってもらったら、それだけで、俺救われるよ……」

「えっ?」



救われる……



そう呟いた百地の声が胸に刺さって、あたしは思わず百地の方へ顔を向けた。
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