百地外伝~夢と希望
車を降りて、真っ先に目に入ったのは戸隠御殿。
そびえ立つ大きな赤い鳥居を見上げた。
そうだよ、あたしの夏の記憶はここで止まってる。
着物を着替えて廊下に出たあたりから、あたしはあたしでなくなって、巫女の呪いは消えてなくなってた。
あの日、何があったのか、翔も百地も教えてくれない。
いつか自分で思い出す、それがわかっているらしい。
目を下に移すと、そこには長と心波とお爺様が三人並んであたし達を出迎えていた。
「父上、ご無沙汰しておりました」
緊張した知波さんの声が後ろから聞こえた。
「お父様、今年は夢子とお世話になります」
ママの声も、ちょっと震えてる?
「あたし、『三羽烏の舞』っていうの楽しみにしてるんだ。
それって、長と心波さんとお爺様三人のことでしょう?」
起きたばかりと言うのに、あたしの口は絶好調。
思ったことを直ぐ口にするのが、あたしの取り柄でもあり欠点でもある。
自分の中に考えを留め置く習性がないのだ。
でも……
あたしの無邪気な問いかけに、三人の顔が一気にほころんだ。