百地外伝~夢と希望
大晦日の夜、あたし達は山に登った。
初日の出を見るために。
少し離れた根来寺の、除夜の鐘が遠くに響いていた。
冷たく肌を指す、真冬の張り詰めた冷気が身体中に染み渡る。
前を歩く、長とお爺様、百地と翔、ママと翔の両親、みんなの吐く白い息を見つめながら、あたしは遠い記憶に引き込まれていった。
この景色、この匂い、この空気、確かにあたしには覚えがあった。
「夢子」
振り向いた百地の顔が、形を変えて歪んでゆく。
嗚呼、しのぶ……
あたしは何処へいこうとしているの?
「リン」
そう呼ばれて、見上げると、あたしの遥か頭上の岩の上に、百地心波の姿があった。