百地外伝~夢と希望
内廊下を足を摺りながら進んで行く。
ここは、見慣れたあたしの場所。
なんの躊躇もなく、行く先を目指す。
屋敷の中心、中洲に開かれた対面の間。
廊下の先の扉が左右に大きく開かれた。
急に開けた視界。
集まる人々。
向けられる視線。
あたしはその中へ進み出ると、両手を高く上げて叫んだ。
『われは巫女なり、みなともに早春の儀を祝おうぞ』
あたしの身体は自然と前と進み出て、会衆の視線を一身に集めたところで、大きく足を踏み上げて止まった。
母の打つ鼓の音と、お爺様の謡う早春の唄に併せ、あたしは舞っていた。
何故か身体が勝手に動いていた。
微かな衣擦れの音、踏みしめる足音……
そしてあたしは、真っ直ぐに伸ばした自分の指の先に、心波の姿を見つけた。
あたしを優しく見つめる心波の眼差し。
懐かしい光景。
嗚呼、あたしは愛されていた。
幼い頃から、この優しい瞳に見つめられ、守られていた。
『何で裏切ることができようぞ……
たとえ二人が真の対でなかろうとも……』