百地外伝~夢と希望
その時だった。
突然、強い風が下から吹き上げるようにやってきて、あたし達の横を通り過ぎていったのは。
風は、中庭に植えられた桜の樹周りを小さな渦を巻いて留まった。
空気が変わった。
桜の樹を中心に、あたし達の周りの空気が明らかに暖かくなったのだ。
「あっ……」
見上げた樹の枝の、木の芽がどんどんと膨らんでいった。
まるで魔法のような瞬間。
目の前で、桜の花が開いてく。
「百地だ……」
あたしは確信をもって、樹の幹に触れた。
「えっ、何? 夢子、これって夢子の魔法?」
「百地が戻って来る」
あたしの中には百地の声が響いていた。
『夢子、俺、戻るよ、夢子のところへ……』
その時、あたしの中に芽生えていた想いも花開いた。