百地外伝~夢と希望
そして迎えた、二月の十四日。
生憎、今年は日曜日。
いやいや、ラッキーとも言えるかな。
あたしは朝から、チョコと格闘。
しっとりガナッシュを挟み込んだ、ハート型のチョコレートケーキを完成させた。
「流石、夢子、プロみたい」
と、何故か隣りで翔が見守っていた。
「翔は作らないの? バレンタインのプレゼント」
「あっ、俺はいいの、一杯貰うから」
そうだよね、小学校の時から翔は貰うの専門。
翔が女の子だってわかっていても、クラスの男子の誰よりも頭が良くてかっこいい翔が、一番の人気者だった。
「ユタ、がっかりするよ~」
「えっ、ユタも友チョコ期待してる?」
義理チョコって言わないとことが、翔らしい。
「しょうがない、ユタと百地には、板チョコでもやっとくか……」
あたしが知る限り、この十数年で翔が男の子にチョコをあげたのなんて見たことない。
ある意味、これは奇跡だよ。
友チョコでも、板チョコでも、ユタ、あんた喜ぶべきとあたしは思うよ。
「じゃ、あたし行ってくるね」
「うん、気をつけて、百地によろしく。友チョコは明日やるって言っておいて」
律儀に百地に挨拶を言付ける翔を残し、あたしは一人、待ち合わせの公園へ向かった。
どうせ、バレバレ~バレンタイン。
なんでもお見通しの忍には、公園に呼び出したあたしの目的なんて言わずもがなだけど、あたしは一人、ドキドキで、吐く息白く、頭から湯気さえ出す勢いで駆けつけた。