百地外伝~夢と希望
「あたしのお母さんもだよ。
おじい様に『この村を出たら、二度と戻るな』って言われたんだって」
「まぁ、夢子の母さんは駆け落ちした訳だしな」
「えっ、田中、お前も根来の出なのか?」
「あたしのお母さん、旧姓『戸隠』っていうの」
「お前、『戸隠』の末裔か?」
百地の顔が厳しく変わった。
どうしたの?
『戸隠』が何か?
「『戸隠』の家は<巫女>を出す家系なんだろ?
もしかして、お前も?」
「夢子は……夢子だよ」
翔が苦しそうに答える。
そうだよ、翔の言う通り。
あたしはあたしで、巫女じゃない。
「あたしのおじい様の妹が百地のおじい様のお嫁さんなんでしょ?
百地君のおばあ様こそ<巫女>だったの?」
「お前ら、そこまで知ってるのか……
でも、その先は……」
「何だよ、その先って?」
「いや、俺もはっきりと知ってる訳じゃない。
これから追々、調べなくちゃとは思ってる……」
その後に続いた沈黙に、翔とあたしは何か複雑な思いを感じ取った。
「まぁ、いいや、分かったら俺らにも教えてくれよ」
「嗚呼」
「なんかさ、俺らって、いっきに濃い関係だな」
って、翔が言って、顔を見合わせて三人で笑った。
百地の笑顔。
初めて見た。
日焼けした顔に覗く白い歯、細めた優しい目。
何処か懐かしい。
胸がキュンとなった。
「ってことで、明日の朝は俺が田中を迎えにいくからな! じゃ」
って、百地はあたしにそう告げると、あっという間に走り去った。
有無を言わせず。
「あたし、いいって言ったっけ?」
「いいじゃん、王子様が迎えに来てくれるって言うんだから」
翔がフフンと笑う。
「か~け~る~」
翔の頭を叩こうとしたあたしの手は、虚しく空を切った。