【短】雨宿り
彼は絆創膏だらけの私の手を取ると、握りしめていた手のひらを優しく開かせた。
そこから顔を出すのは、彼がくれたふたつのもの。
ひとつは『Happy Birthday』の文字が並ぶカード。
もうひとつは……
「じゃあ今から、雨を好きにさせてやるよ」
手のひらにある、ふたつめの中身を取り、彼によって薬指にはめられたそれは、小さいけどダイヤの埋め込まれたリング。
咄嗟の思いつきで買えそうにない代物。
「給料3ヶ月分とまではいかないけどさ」
「……」
「大事な女の特別な日、忘れるわけないじゃん」
「……」
「浮気なんかしてる暇ないし、するつもりもないし、そんな必要もないし」
「……」
「ちゃんと、好きだから」
「……」
私の顔を見て困ったように首の後ろをポリポリ掻く彼は、コウモリ傘を開くとそれで顔を隠し
「泣きすぎ」
って、涙でグチャグチャの私にキスをした。
無精髭が当たって、ちょっと痛い。
けど、鼻に届く香りが心地よくて、彼が離れないようにTシャツの裾をキュッと掴んだ。
誕生日が来る度、私はこの香りを思い出すのだろう。
漂う珈琲と、雨の混じった匂い。
煙草の臭いはもうしない。
私が口を開こうとすると「わかってる」と、彼はまたその唇を塞いだ。
彼には全てお見通しなんだ。
鞄の中にある彼の車のキーが、カチャッと音を立てた時、傘を持たない腕が私をギュッと抱き締めた。
「デキてからだとめんどくさいからさぁ。今のうちに」
今はもうわかる。
彼の照れ隠し。
「籍入れとく?」
【おわり】
そこから顔を出すのは、彼がくれたふたつのもの。
ひとつは『Happy Birthday』の文字が並ぶカード。
もうひとつは……
「じゃあ今から、雨を好きにさせてやるよ」
手のひらにある、ふたつめの中身を取り、彼によって薬指にはめられたそれは、小さいけどダイヤの埋め込まれたリング。
咄嗟の思いつきで買えそうにない代物。
「給料3ヶ月分とまではいかないけどさ」
「……」
「大事な女の特別な日、忘れるわけないじゃん」
「……」
「浮気なんかしてる暇ないし、するつもりもないし、そんな必要もないし」
「……」
「ちゃんと、好きだから」
「……」
私の顔を見て困ったように首の後ろをポリポリ掻く彼は、コウモリ傘を開くとそれで顔を隠し
「泣きすぎ」
って、涙でグチャグチャの私にキスをした。
無精髭が当たって、ちょっと痛い。
けど、鼻に届く香りが心地よくて、彼が離れないようにTシャツの裾をキュッと掴んだ。
誕生日が来る度、私はこの香りを思い出すのだろう。
漂う珈琲と、雨の混じった匂い。
煙草の臭いはもうしない。
私が口を開こうとすると「わかってる」と、彼はまたその唇を塞いだ。
彼には全てお見通しなんだ。
鞄の中にある彼の車のキーが、カチャッと音を立てた時、傘を持たない腕が私をギュッと抱き締めた。
「デキてからだとめんどくさいからさぁ。今のうちに」
今はもうわかる。
彼の照れ隠し。
「籍入れとく?」
【おわり】