【短】雨宿り
──ガタッ。

突然、私の目の前の椅子が引かれる音に驚いて顔を上げると

「相席いいですか?」

ニッコリ微笑む男性が1人。

「……」

私は無視したまま、ストローで甘いミルクをすすった。

「トリオ、うまいっすよね!僕も好きなんです」

そして、私の反応にお構いなしに店員を呼びつけ、彼は私と同じトリオを注文した。

「今日、混んでますね。昼時だからか。いや、でも、席開いてて助かった〜」

『相席、いいですよ』

なんて言ってないけどね?

「あの、おひとりですか?」

ナンパかなんかのつもり?

「たった今、独り身になったとこです」

私は左手をかざし、薬指にある指輪の跡を彼に見せた。

「あー……そう……ですか」

「まだ傷は癒えてないので、1人にしてもらえません?」

「いやぁ……。なんつーか、奇遇だな」

「は?」

「僕もね、今大事な人と喧嘩しちゃって、どうしたら仲直りできるか考えてたとこなんですよ」


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