【短】雨宿り
「いいから、とりあえず僕の話を聞いてください」

彼は、また私の手をつかみ、歩きながら話し始めた。

「僕、仕事休みがなかなかとれなくて、と言うか、いっぱい稼いで彼女との生活を守る事が、愛情表現だと思ってたんですね」

「そんなの、男のエゴにしか過ぎないですよ」

「うん。彼女が出て行って、初めて気づきました」

「どうせ、そんなんで、大事な記念日も忘れたりしてたんじゃないですか?」

「はい。今日、彼女の誕生日だったんですよね」

「男なんて、みんな同じですね。釣った魚に餌を与えない」

そんな私の一言に、彼は眉を少したらして悲しげな笑みを浮かべたまま首を横に振った。

「餌は、与え続けてるつもりでした。ただ、魚が食べたいのはそれじゃなかったと気づくのが遅すぎたわけで」

「ご愁傷様」

私はまた彼の手を振りほどき、1人サッサと歩き出した。

「もし、あなたが今日誕生日だとしたら、何がほしいですか?」

慌てて追いかけてきた彼が私に聞く。

苛立った私は足を止め、振り返って彼に言った。

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