【短】雨宿り
私は、ただそこにいてほしかっただけなのに。

結婚って、幸せの絶頂だと思ってた。

大好きな人がそばにいて、その日の終わりに彼の顔を見ることができる。

その日の始まりに、誰よりも先に「おはよう」が言える。

碧斗の笑顔が大好きだったから、毎日あの笑顔に会えるんだって思ってた。

なのに営業で疲れて帰ってきた彼は、帰宅に喜ぶ私を素通りして

『疲れたーっ』

って、ソファに横になり、スーツをシワシワにしてしまう。

『ただいま』とかないの?

口べたなのは知ってた。

でも、碧斗を想って半日かけて作った私の手料理を、携帯いじりながら10分もしないうちに簡単に食べ終えてしまう。

そして『ご馳走様』もなければ『美味しかったよ』もない。

食べたら食べっぱなしで、脱いだら脱ぎっぱなし。

使ったら使いっぱなしで、話しかける私に

「俺、お客さんと話ばっかしてきたから、家帰って来てまでしゃべりたくないわ〜」

と言って『おやすみ』もなく、ソファで横になったまま気づいたら眠っていた。

< 43 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop