【短】雨宿り
『ただ、そばにいてほしかった』

目の前にいるその彼は私の言葉を聞いて、おもむろにポケットから茶封筒を取り出した。

「あ……色気ないかもしれないけど、こんな封筒しか見あたらなくて」

手紙……?

「仲直りしたい彼女を想って書いたんです。僕、口下手で、うまく伝えられないから」

「じゃあ、彼女に直接渡せばいいじゃないですか」

「だから、シュミレーション。これで仲直りできるかどうか、あなたが判断してくれませんか?」

「……」

私は、仕方なく受け取った封筒の中から便箋を取り出した。


折り畳まれていた便箋を開くと、それは便箋じゃなく、ノートを破ったものだとすぐにわかった。

慌てて破いたのかその紙は端の方が斜めに欠けている。

少し癖のある右上がりの文字。

男の人にしては小柄でキレイな文字。

「こんなの」

「え?」

「こんなの書く暇あったら、その前にそのボサボサ頭を、なんとかすれば良かったんじゃないですか?」

「あー……急いでたから」

照れくさそうに頭を手ぐしでとかそうとする彼。

「ばかみたい」

ばかみたい。

いつも外出るときはスーツ着て、ビシッと決めるくせに。

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