【短】雨宿り
元々煙草の臭いは嫌い。

酸素を減らす毒みたいな感じがして、息苦しくなるから。

もし私が結婚して子供が出来たら、絶対に煙草を吸わない旦那であって欲しいと思う。

その前に結婚相手見つけなきゃ、だけど。

「コホッ」

煙にむせて小さく咳き込んだ時、楽しい語らいを終えた無精髭ヤローは、吸う人を恨めしげに眺めて。

それから、愛想のない顔をこっちに向けた。

さっきの笑顔と大違いだ。

まぁ、私もあのウエイトレスみたいに愛らしい表情はどこを探しても出てこないから、お互い様なんだけど。

私は、側にあった空っぽの灰皿を無精髭の前へ滑らせてみた。

なのに

「いい」

なんて押し返されるそれ。

不機嫌そうな男イコール、ニコチン切れっていう私の中での方程式が覆された。

明らかに周りの喫煙者に反応してる風なのに。

不思議そうに見つめる私に、髭男は小さなため息を返す。

トントン……テーブルを叩く髭の指が、私まで落ち着かなくさせた。

その音から気をそらす為に珈琲をスプーンでかき混ぜると、今度はフッと言う気の抜けた笑い声が髭の口から零れる。

あ、何も入れてない珈琲を混ぜる必要なんてないんだった。

飲み慣れないブラックを持て余してることに気づかれたみたいで悔しい。

だから当然のようにさらに混ぜ、ゆっくりスプーンをソーサーの上に置いてみる。

ちょっとした、意地。

でも、ズズッと目の前のブラックに口をつければ、淹れたてのカフェオレが向かい側に置かれ。

ぬるい苦味が口の中で広がった時、

「あつっ」

カップを口元に運んだ髭が呟いた。

「なんかいちいち癇に障る」

「は?俺?今なんかした?」

「……別に」

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