【短】雨宿り
「あ、そう言えばそれ、今流行ってんの?」

「え?」

髭男の指差す足元を見下ろせば、左右色違いのクロックスがそこにあった。

「あ、あれ?えぇっ?」

左足はカーキ、右足は焦げ茶。

なんとなく似てるから、有り?

いや、有りか無しかって言えば無しでしょう!

この男に言われるまで気づかなかったなんて。

これじゃ、無精髭の方がまだマシだ。

こんな足で歩いて来ちゃったんだ。

「単に間違えただけ?」

「い、いえ!流行りですよ!知らないんですか!へー!」

「流行りでも俺はしないけどね」

悔しい。

勝てる気がしない。

クスッと、また鼻で笑う髭男の息が、私の前髪を揺らした。

「な、何なの?突然現れて、相席断っても座るし、こっちはあかの他人と話す暇なんかないって言ってるのにやたらと話しかけてくるし。

あー、何だかんだ人を小バカにした様な口調だけど、実はあなたの方がフラれたばっかりだったりして?八つ当たりとかやめてもらえます?」

悔し紛れに、はぁはぁと鼻息荒く突っかかってみたけれど。

「俺?いや?」

少しの動揺も見せない髭男は、やんわりとした否定と微笑みを返すだけだった。

「めちゃくちゃいい女と同棲中だよ?まぁ、突然突拍子もないことしでかして困らせるとこが玉にキズだけど」

「……」

「手のかかる子ほど可愛い、みたいな?」

「──のろけないで下さい」

「あー、あんたフラれたばっかなんだっけ?」

「だから、フッたんです!」

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