【短】雨宿り
またシュンと沈み込む気持ちにブラック珈琲を流し込んで渇を入れると、

「浮気されたから」

ガチャッと必要以上に音を立て、カップを置いた。

「現場でも押さえた?」

「押さえては……いないけど」

「想像?単なる被害妄想で別れるんだ?」

「違う!見てなくてもわかるもん。感じるの。直感」

「鈍そうだけど、その直感当たるの?」

「当たっ……」

当たった試しはないけど。

鈍そうなんて、決めつけないでほしい。

「残業残業ってここ1ヶ月帰宅は毎朝3時過ぎって、そんなのおかしいと思わない方がおかしいでしょ?

昨日は珍しく早く帰って来たかと思えばゆっくり話す暇もなく先に寝ちゃうし、せっかくの休みなのに今朝は全然起きないし。

そんなの、一緒に住む意味ないよ。

よく考えれば最初からそうだったのかも。私が気づかなかっただけで、きっと前からそういう浮気は続いてたんだ。

私の気持ちも届かない」

「届かないって決めつける前に、その気持ちぶつけりゃいいのに」

「ぶつけたよ」

「どうやって?」

「置き手紙に」

私のありったけの気持ちを『さよなら』の4文字に託して二人で過ごしたアパートを出てきたんだ。

「置き手紙して家出?勝手だね。その前に直接ぶつけろよ。手紙なんかじゃ伝わんないだろ」

「ちゃんと伝わるように、……あれも残してきたもん」

「あれ?」

「隠してあったエッチなDVDと、未だに残ってる昔の彼女の写真」

「コワッ」

「怖い?」

「怖いだろ。何それ?超ビビる。何の前触れもなく突然だろ?一瞬放心状態じゃね?」

「そんなの取っておく方が悪いんだから。浮気だって、する方が悪い。浮気もDVDも止められないなら、別れてくれた方がいい」

「答え焦りすぎじゃない?とりあえずDVDと写真は捨ててもらうとして。

浮気はもう少し調査して証拠を見つけてから疑ってもいいんじゃない?本人は残業だって言ってるんでしょ?

ほら、そしたら今の段階で別れる理由なくなるじゃん」

「残業だなんて嘘に決まってる」

「なんで信じない?」

「信じれるわけないもん」

「信じろよ」

「無理」
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