俺様王子と秘密の時間
「……シイは、好きな人っているの?」
あまりにも唐突でストレートな質問に驚いたあたしは、洗顔石鹸を滑り落とした。
「えーっ……いないかも」
ふいに口から出た、でたらめの言葉に後ろめたさがあった。
チラッとはーちゃんを盗み見みすると頭はシャンプーで泡ぶくだらけ。
「……そっか。あたしね、好きな人がいるんだけど、どう接したらいいか全くわかんないんだよね……」
バシャッ
シャンプーをお湯で洗い流すと、はーちゃんはあたしを見た。
温泉に入っていたせいか、はーちゃんの顔は真っ赤になっていた。
知ってるよ……。
千秋が好きなんでしょ?
と、聞けずに口を結んだ。
「“恋”ってよくわからないね」
「……うん」
“恋”がわからないと言ったはーちゃんの気持ちがすごくよくわかった。
もどしかくて、素直になれなくて少しだけ臆病になってしまう。
簡単な恋なんて、ないんだよね。