俺様王子と秘密の時間
「突き放してやれねぇなら……、シイに近づくんじゃねぇよ」
二人の顔は見えない。
さっきまで抱きしめ合っていた千秋の体温はもうとっくに消えていた。
「はあぁー、しつこいな雅弥も。アイツとは何でもねぇって」
あたしの前では羽鳥と呼んで、今は“雅弥”と呼んだことがやっぱり何かあるんだと確信させた。
太陽が沈んでいく。
保健室に射し込む光は少しずつ消えていった。
「それが本当だとしても……」
羽鳥は言いかけてそこで一度、間を置いた。
「何が言いたいんだ?」
沈黙を破るように、千秋はため息混じりで言う。
「シイは渡さねぇよ」
羽鳥の声はちょっとだけ力強いものだった。
もう何がなんだかわからなくて、ぐちゃぐちゃな気持ちが渦巻いていく。
……羽鳥の言葉にあたしはワイシャツの裾をギュッと握りしめた。
ギシッ……
身体に変な力が入ってしまったせいでスプリングが軋んだ。