俺様王子と秘密の時間
カタン……と入り口付近で物音が聞こえ、羽鳥はすぐにあたしから離れた。
……触れるようなキスだった。
まるであたしと羽鳥だけがこの世界に存在するような、時間が止まったみたいだった。
目を瞑ることすら忘れた。
いつもあたしの頭を撫でてくれていたその温かい手は、今この瞬間だけ違うモノに変わった。
「……帰るぞ」
何か言葉にすることさえ出来ずに、あたしはただ唖然として立ち尽くす。
―――“どうしてキスしたの?”そんなことを口に出して聞けない。
だからあたしは無理矢理その言葉を呑み込む。
あたしの手を包みこむように握ると、羽鳥はさっきと同じようにあたしを引っ張って、一度もこちらを向かずに教室を出た。
チャリン……、ポケットから鍵を取り出すと黒いバイクにエンジンをかける。
けたまましいくらいの音が響いた。
薄暗い駐輪所で羽鳥はそれを器用にこなして、やっとあたしに顔を向けた。