俺様王子と秘密の時間


「じゃあ千秋とは何もねぇの?」

「何もないわよ。ただ、春くんにおめでとうって言った時……」


ユリさんが声を詰まらせる。

微かに震えているのが、少し離れた場所で立ち尽くしているあたしにもわかった。



「泣いちゃて……春くん家から、逃げ出してきちゃって……それで千秋の胸貸りたの……」


春希さんは言っていた。

夏休みにユリさんが家に来たと。


そして婚約することを聞いたユリさんが、春希さんに会いに行ったのが夏休みだと羽鳥はあの雨の日に話してくれた。

涼くんが撮った写真は、千秋がユリさんを抱きしめている写真。



そして写真の日付は、8月……。



「ねえ、雅弥……千秋にも言ったんだけどね、本当にありがとう。それに振り回してごめんなさい」


ユリさんが小さく俯くと、涙を隠すように長い巻き髪が肩から滑り落ちた。

 

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