俺様王子と秘密の時間


微笑みかけるユリさんに、あたしは見とれてしまいそうになる。



「は……はい……」


力無く返事するあたしを見ると、ユリさんは「じゃあね」と言って背を向けた。

そして入り口付近でいったん立ち止まると、振り返らずにユリさんは呟いた。



「雅弥、ほんとにありがと……」


羽鳥がその背中に言葉を投げかけようとしたけれど、それよりも早くにユリさんは去っていった。


しばらくあたし達はただ立ち尽くしたまま口を開かずにいた。

その沈黙を破るように羽鳥が口を開いた。



「ったく、千秋のヤツ。カッコつけすぎなんだよ……」


羽鳥が大きなため息を吐き、しゃがみこみ、ちょっとだけ悔しそうな顔をした。

 

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