赤と黒の心理学
彼の生い立ち
 彼の名は「京」。ロリータファッションをしていても色白の肌でも丸顔でも158cmの身長でも、戸籍上れっきとした20歳の「男」、三人兄弟の長男である。
 京は昔から弟達と明らかに違っていた。二人の弟は背も高く色黒で体つきもがっちりした、れっきとした男である。京が弟達と共通しているのは声と男性特有の体の一部だけだった。京が一番下の弟に見られてしまうことも少なくない。
 子供の頃から明らかに体格差がありすぎて兄弟喧嘩になればボコボコにされるのはいつも京。そんな京を見て両親は
「兄のくせに情けない。」
と冷たい目で見ていた。特に父親と上の弟、和夫とは今も仲が悪く、顔を合わせても全く口を聞かずに避けている、いわゆる冷戦状態である。
 それでも下の弟、俊夫とはさほど仲は悪くなかった。俊夫とは大好きな漫画やゲームの話題や貸し借りで盛り上がるし、京の女装を見て俊夫は
「その方が兄貴に似合ってる。」
と言っている。
 母親も京が子供の頃は
「男のくせに弱い。」とバカにしていたし、女装を始めた時も
「オカマみたいなこと気持ち悪いからやめて。」
と嫌がっていた。だが今では女装した京が周囲から「可愛いお嬢さんですね。」「お人形さんみたいね。」などと褒められるたびに「自慢の娘」という感じで誇りに思ってしまう。時々一緒にロリータ服の買い物に付き合うくらい京の女装を認めてしまったのだった。
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