ぼくとあたしの恋物語's
「だから!」


 語尾が荒い。
とともに、小さなため息が受話器の向こう側から聞こえてくる。
ややあって答えが返ってきた。

「…今日はちょっと無理だから」
「そうですか。ごめんなさい」

あたしはそう答えるしかない。
無理を強制する権利なんかどこにもないのだから。
じゃあねとケータイを切って、人ごみあふれる雑踏の片隅で、小さく鳴咽する。

誰もあたしのほうなんか見ちゃあいないからと、人目を憚らずに。

そして。
あたしは人込みの群れの中へ流されていくのだった……。

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