癒やしの里
改札口には、「乗車券はこちらにお入れ下さい」と書かれた紙の貼られた木箱が置いてあるばかり。
ICカードで乗車した俊次くんは、そのまま通過しました。
文化財級の古ぼけた駅舎を抜けた先に広がっているのは、文句なしの田園風景。
首都圏ならば必ずある駅前コンビニも、またそれに準ずるような店も、当然ながらありません。
ただ砂利道が一本、刈り入れの済んだ田圃をまっすぐに突っ切って、向こうに見える山々へと続いているばかり。
俊次くんはその道を歩き始めました。
この道の先には、いったい何があるのだろう?

しかし、ここは山々と田畑、そのなかに僅かばかりの農家が点在しているだけの、見事なまでの田舎です。いくら歩いたところで、そう景色が変わるものでもありません。
また、駅前を出発してから一度も人や車とすれ違わないのも、どこへ行っても人だらけの東京大都会で生活している俊次くんには奇妙な感じがしましたが、田舎は過疎化が進んでいるからだ、とすぐに思い当たりました。

道は小高い丘を越えて、さらに先へとのびています。
丘の頂きに立った俊次くんは、眼下に村らしき人の営みが広がっているのを発見しました。
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