癒やしの里
田舎の人特有の少し日に焼けた純朴そうな顔が、皆にこやかなのを見て、俊次くんは村人たちが今日の祭礼をいかに楽しみにしていたかを感じました。
そして自分もこの人たちと一緒に、短い時間でも祭りを楽しみたいと思いました。
露店で焼きそばやたこ焼きを買って食べたり、射的や金魚すくいに挑戦したりetc…。 焼きそばの露店のおばちゃんなどは、「お兄さん男前だから、一〇〇円に負けたるわ」と言って定価から二〇〇円引きにしてくれたりして、東京ではなかなかお目に掛かれない人情に、俊次くんは心がホッコリしました。
神社の境内はそれほど広くもありませんでしたが、祭りという空間に包まれたそこは、現実世界から隔絶された夢幻の世界、二日間俊次くんの心に焼き付いて離れなかった、「アタシ、あなた以上に愛せる男性(ひと)を見つけたの」なんて言葉さえも跡形なく溶解させた、神秘のパワーに満ちた癒やしの空間でした。
しかし、西の空が茜色に染まりだしたのを見て、俊次くんは東京へ帰らなければならない時刻(とき)が来たことを悟らねばなりませんでした。
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