抜けないリング~先生の薬指~
その瞳に臆することなく、その人物は堂々と教室に入ってきた。
「どうも!」
その人物は、まず生徒ではなかった。
静まり返る空気も全く気に留めていない。それどころか、空気を読もうとすらしていない。
皆が皆目を丸くしてしばらく固まっていた。それからヒソヒソと教室が賑わいだした。
丹波先生だけが状況を飲み込めているようで、涼しそうな顔でその人物に気さくに話し掛けている。
私も伊奈も、その人に心当たりはない。
黙って教壇上の二人を眺めていた。
「紹介が遅れてしまいましたね。では、先生ご自身でなさって下さい。」
丹波先生はそう言ってからくすくす笑い、その場にあった黄色チョークを、『先生』とやらに渡した。